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最低賃金引き上げ前に考えたい「人時生産性」は本当に店舗の価値向上につながっているか?

2026.09.18

2026年10月から順次、全国で地域別最低賃金の改定額が順次発行されます。最低賃金の引き上げは、もはや一時的な動きではありません。政府は、遅くとも2030年代前半のできる限り早期に、全国平均1,500円を目指す方針を示しています。(出典:厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」、厚生労働省「上野大臣会見概要(令和8年7月28日)」)

今後も継続的な賃上げが見込まれるなか、小売業にとって「人件費をどう吸収するか」は、より重要な経営課題になっていくでしょう。

その対応策の一つとして注目されるのが「人時生産性」です。しかし、人時生産性を高めることが、「より少ない人数で店舗を運営すること」や「人件費を削減すること」と同義になっていないでしょうか。

人員削減によって人件費を抑えたとしても、売場・接客・教育・店舗改善に必要な時間まで失われれば、店舗全体の生産性を高めたとは言い切れません。

「何時間削減できるか」ではなく、「その時間で何を生み出せるか」。それが、人時生産性を考えるときの視点ではないでしょうか。

今回は、そんな視点から店舗における「時間」の価値を考えます。

1.レジは回っている。しかし、店舗全体を見る時間はあるか

店舗運営に携わっていると、目の前の対応に追われ、「本来時間をかけるべき仕事」が後回しになってしまう場面は少なくありません。

レジが混雑すれば、売場のスタッフが応援に入る。すると今度は売場の作業が滞り、店長や責任者が品出しに入る。一方で、数値の確認や報告、本部からの連絡事項の確認など、後回しにできない業務もあります。

その結果、従業員とのコミュニケーションや教育、売場の改善、今後の施策を考える時間など、緊急ではないものの、店舗運営にとって重要な仕事に使える時間が削られ、「今やらなければならない仕事」に追われ、「本来やるべき仕事」に時間を使えなくなるという玉突き事故状態になります。

こうした事態も、店舗の生産性を考えるうえで見過ごせないポイントです。もちろん、店長や責任者が現場に入ること自体が問題なのではありません。問題は、現場対応が常態化することで、店長・責任者が本来担うべきマネジメント業務に時間を使えなくなることです。

目の前の業務を効率よく処理できていても、その結果として別の重要な業務が後ろ倒しになっているのであれば、店舗全体として生産性が向上したとは言い切れません。

重要なのは「何時間削減できたか」だけではなく、「削減した時間によって、何ができるようになったか」です。

2.販売機会損失による人時生産性の低下

「重要な業務の後ろ倒し」はマネジメントの時間だけでなく、売場にも影響します。

新商品の入荷、売れ筋・売り筋商品の在庫の確保ができている一方で、「展開する時間が取れない」「季節商品の入れ替え・売場変更が後回し」という状態が続けば、販売機会損失につながることは明白です。

人時生産性を人件費や労働時間の削減だけで捉えると、こうした「売場に出せなかった時間」の価値は見えにくくなります。しかし、小売業にとって人の時間は、コストであると同時に、売上を生み出すための資源でもあります。

「どれだけ効率よく業務を終えたか」「何人で店舗を回せたか」だけではなく、「その時間を使って、どれだけ売れる状態をつくれたか」まで考えてこそ、小売業における人時生産性と言えます。

3.生産性を高める鍵は、「売れる状態」に時間を使うこと

ここで、あらためて人時生産性の考え方を整理してみます。

人時生産性とは、一定の人時でどれだけの売上や利益を生み出せたかを示す指標です。数値を高める方法は、大きく分ければ二つあります。

・人時を減らして、売上を維持する

・限られた人時で、より大きな売上・利益を生み出す

前者のために、人員配置や業務効率化によって不要な人時を削減することは重要です。一方で、限られた人時を「売れる状態」をつくるために使うことも、同じように重要ではないでしょうか。

店舗をマネジメントする立場の方は、「お客様の目線」で売場を視察する機会も多いはずです。

しかし、毎日見ている売場ほど、変化や違和感には気づきにくくなります。見慣れた売場を客観視し、「買いやすい状態になっているか」を確認するには、目の前の業務から少し離れて売場を見る時間も必要です。こうした時間を確保できなければ、売場の小さな変化や改善の機会を見落とす可能性があります。

「買いやすい売場」をつくるために使った時間は、単なる作業時間ではありません。購買につながる状態をつくり、売上を生み出すための時間とも捉えられます。

先日、当サイトでも紹介した、株式会社エムアールエスと協力会社による共同調査「流通・小売の売場・接客に関する調査」では、「また来たい」と思えるお店の特徴として「接客が丁寧で親しみやすい」が48.0%で最も多く、次いで「困ったときにすぐ声をかけられる人員体制が整っている」が36.0%という結果になりました。

また、46.8%が買い物中に「スタッフが少ない・不在で困った」経験があると回答しています。

 

関連コラム お客様の約47%が「スタッフ不足で困った」と回答。エムアールエスが共同調査を実施

 

この結果からも、売場だけでなく、お客様が必要なときに必要なサービスを受けられる状態をつくることも、「買いやすさ」を支える要素と言えます。

もちろん、買いやすさだけで売上が決まるわけではありません。価格、品揃え、立地、商品力など、さまざまな要素が売上を構成します。

人時生産性を高めるとは、時間を削ることだけではありません。限られた人時を、売上や利益につながる仕事に振り向けることも、生産性を高めるということです。

4.利益を増やすとき、「削る」ことだけが答えではない

小売業で利益を確保するには、粗利の改善、客数の確保、客単価の向上、販売管理費の適正化など、さまざまなアプローチがあります。その中でも、人件費は比較的コントロールしやすい項目の一つです。だからこそ、人員配置の見直しや業務効率化による人時削減は、利益改善を考えるうえで重要な取り組みになります。

一方で、コストを削減した結果、売上まで縮小してしまえば、その取り組みは本当に利益改善につながったと言えるでしょうか。

例えば、人時を削減したことで売場のメンテナンスや商品展開に手が回らなくなれば、販売機会損失につながる可能性があります。接客や教育に使える時間が減れば、顧客満足度や従業員の成長にも影響するかもしれません。

特に既存店の客数を増やすことは容易ではありません。価格、品揃え、立地、競合、商圏など、さまざまな要素が絡み合う中で、短期間で客数を大きく伸ばすことは簡単な課題ではないでしょう。

だからこそ、いま来店しているお客様の購買機会を守り、店舗を選び続けてもらうことも、利益を考えるうえで重要になります。

人件費を抑えることだけを目的にするのではなく、削減によって生まれた時間を、どのような業務に充てるのか。その視点まで含めて考えることが、これからの店舗運営には求められるのではないでしょうか。

5.削った時間をどこに充てるのか

人時生産性を高めることが目的になると、「どこを削れるか」に意識が向きがちです。

しかし、重要なのは削減そのものではありません。削減によって生まれた時間を、店舗にとってより価値のある業務へ充てることに意味があります。

例えば、
・新商品の展開や売場の構築
・売場のメンテナンスや変更
・従業員との面談やコミュニケーション
・従業員教育・新人教育
・店舗課題の特定・整理
などです。

これらは、目の前の業務を処理することとは異なり、緊急性が低く見えることもあります。しかし、店舗の売上や顧客満足度、従業員の成長、さらには次の施策を生み出すためには欠かせない業務です。

こうした業務に必要な時間を確保できてこそ、業務効率化によって生まれた時間が、店舗の価値向上につながります。人時を削減すること自体を成果とするのではなく、その結果として店舗に生まれた変化まで含めて評価することが、人時生産性を考えるうえで重要です。

6.最低賃金の引き上げを、店舗の時間を見直すきっかけに

最低賃金の引き上げによって、人件費への対応は今後も重要な経営課題となるでしょう。だからこそ、人時生産性を高める取り組みは欠かせません。

ただし、「何人減らせるか」「何時間削れるか」だけでは、小売業における生産性の一面しか捉えられません。人の時間をコストとして捉えるだけでなく、売上や利益、顧客満足度、従業員の成長を生み出す資源として捉える必要があります。

そのうえで、業務ごとに「この時間を使う意味はあるのか」「本当に時間をかけるべき仕事に時間を使えているか」を見直し、効率化によって生まれた時間を、店舗にとって価値のある業務へ充てていくことが重要です。

場合によっては、店舗内の業務をすべて自社の人員だけで担うのではなく、業務ごとに運営方法を見直し、外部のリソースを活用することも選択肢の一つになります。

最低賃金の引き上げは、人件費を見直すきっかけであると同時に、店舗にある「時間」の価値を見直すきっかけにもなります。人時生産性の向上は、人を減らすことだけでは実現しません。限られた人の時間を、売上や利益、顧客満足度につながる仕事に充てられる店舗運営こそ、これから求められる生産性のあり方ではないでしょうか。その先に、売上や利益だけでなく、お客さまに「また来たい」と選ばれる店舗づくりがあります。

 

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【執筆】

株式会社エムアンドアール マーケティング戦略課 Y・M

<プロフィール>

小売業界歴20年|店舗運営・人材育成の現場エキスパート

小売業界で20年にわたり、店長・ブロック長・エリア長・教育担当として、店舗運営と人材育成に携わってきました。

新店立ち上げ時のスタッフ教育、既存店スタッフの接客・CS教育、新入社員研修など、店舗現場における人材育成を幅広く経験。全国約300店舗を対象としたCS施策や臨店指導、8店舗のエリア統括にも携わりました。

ドラッグストアでは、人事部の教育担当として中途採用社員や新店従業員の教育を担当するとともに、店長として従業員管理・予算管理も経験しています。

保有資格・免許

  • 中学校教諭一種免許状(国語)
  • 高等学校教諭一種免許状(国語)
  • 医薬品登録販売者
  • 食品衛生責任者
  • 酒類販売管理者
  • レクリエーション介護士2級

 

【監修者】

株式会社エムアンドアール マーケティング戦略課 主任 H・O

<プロフィール>

小売業で30年のキャリアを持ち、エリアマネージャーとして多数の店舗管理を主導。経営会議への参画や全社的な販売計画書の策定を通じて、店舗現場から経営戦略まで幅広く精通する。現在は小売業界に特化した人材ソリューション事業にて、店舗運営支援や人件費・採用適正化の分析・執筆を担当。現場視点と経営視点を融合させた実践的な情報発信を行っている。

主な支援先

国内の大手・中堅スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター、百貨店内小売店、アパレルショップなど

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運営会社: 株式会社エムアンドアール
編集担当: マーケティング戦略課

 

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